2015年12月4日金曜日

News: 体脂肪の多さは痩せにくさと比例する-タンパク質sLR11

今日のMED News。

先日、科学誌のNature Communicationsにて発表されたイギリス・ケンブリッジ大学と日本・東邦大学の共同研究によると、 体脂肪が多い個体において、ある種のタンパク質が、体脂肪の減りを抑える性質を持っていることが分かりました。

(*脂肪組織についての解説は記事下部参照。)


マウスを使った実験にて、sLR11というタンパク質が褐色脂肪の燃焼による体温維持を抑える機能を持つことが判明。そして、sLR11遺伝子ノックアウトマウスでは、脂肪燃焼の抑制がないために、たくさんカロリーを摂取しても太りにくいという結果が出ました。

また、同じノックアウトマウスでは、通常は褐色脂肪細胞にて働くタンパク質を生成する遺伝子が、白色脂肪細胞においても強い働きを見せました。彼らの体は普通のマウスよりもより熱生成が活発で、脂肪分の多い栄養を摂るとエネルギー使用量が高まったということです。

さらなる研究にて、sLR11の詳しい働きが明らかになりました。このタンパク質は脂肪細胞のある受容体に結合し、熱生成を抑えて脂肪分を蓄えるようにシグナルを発します。これにより、体内の糖分や脂肪分がより多く脂肪組織に貯蔵されていくのです。
また、人体において、このsLR11の血中濃度が、脂肪細胞の量と直接比例するということが分かったのです。つまり、脂肪細胞が多ければ多いほど、脂肪燃焼を抑えるタンパク質の量も多い、すなわち痩せにくい…とういことです。
ある患者においてのデータでは、体重の減りに比例して、この燃焼抑止タンパク質も減ったということでした。研究者は、ここから「sLR11は脂肪細胞から生成される」という仮説を立てています。

この結果から分かるのは、人体が貯蓄したエネルギー源をなるべく長く保存するためのメカニズムを持っているということです。これは、大昔の人間の生活において大切な機能だったでしょう。毎日必死に狩りをしてせっかく苦労して得た食べ物が、生命維持には使われず、すぐに熱として無駄に放出されては困ります。

それが、現代のように食の飽和の時代になると、食物の摂取が過剰になりがちです。そうして得た過剰な養分もとりあえず貯めておいて、本当に必要な時だけに使うように大事にしまっておくので、どんどん脂肪分が増えていきます。原始時代では現代と違ってタンパク質の摂取量の方が多く、脂肪分はエネルギー価の高い貴重な栄養源だったので、飢餓状態に陥った際にエネルギー源として使うためのリストでは、一番最後に載っているんです。順番としては、

1. 糖分 (血糖、グリコーゲン。数分~数時間分のエネルギー)
2. タンパク質 (筋肉。一週間)
3. 脂肪 (4~6週間) です。

脂肪組織の分解は、体内からのエネルギー獲得の最終手段なのです。
このことからも、肥満型の人がダイエットをしようとしてもなかなか難しい理由が説明できるでしょう。

研究者たちは、この結果をもとにして、新しい薬の開発に貢献できるのではないかと考えています。sLR11タンパク質を阻害するか、またはそれ同様の効果を示す薬を開発できれば、肥満解消につながるのではないでしょうか。


元記事
Je mehr Fett, desto weniger Chancen abzunehmen
APA Dez 1, 2015
http://www.univadis.de/medical-news/53/Je-mehr-Fett-desto-weniger-Chancen-abzunehmen?utm_source=newsletter+email&utm_medium=email&utm_campaign=medical+updates+-+daily&utm_content=502410&utm_term=automated_daily


脂肪組織について
哺乳類の体脂肪には、白色脂肪褐色脂肪の二種類があります。

白色脂肪は過剰に摂取されたカロリーの貯蔵庫であり、身体のエネルギーが足りないときに分解され利用されます。

褐色脂肪は人体において重要な体温維持・調節に関わっています。

みなさんが寒い場所に出たとき、身体はどういう反応をしますか? 体が震えますよね。これは筋肉を収縮 させて、熱を作り出しているのです。しかし、この現象はいつも起きるわけではありません。では、気温の変化がほんのわずかで筋肉の助けまではいらないという場合、身体はどこでどうやって熱を作り出しているのでしょうか?

答えはこの褐色脂肪組織です。褐色脂肪にはノルアドレナリンに対する受容体があります。このβ3受容体に結合すると、UCP1(脱共役タンパク質、独・英uncoupling protein。サーモゲニンThermogeninとしても知られる)が生成され、ミトコンドリアで脱共役が起こり熱が産生されます。
脱共役とは、ミトコンドリア内でのATP生成のために必要なプロトン勾配を、このUCP1の埋め込みによって緩やかにし、ATP生成に使われるはずだったエネルギーを熱として放出させる現象のことです。これは、動物の冬眠時に良く見られる、運動に伴わない大事な熱産生の手段です。また、筋肉がまだ発達していない乳児においても大切なメカニズムです。そのため、乳児における褐色脂肪の割合は全体の5%と、成人に比べ高くなっています。
体が成長するにつれて減っていく褐色細胞ですが、大人になっても完全になくなるわけではなく、熱生成が必要なときには利用されています。

この二つの脂肪組織の違いを上げると、単一の脂肪滴が含まれている白色脂肪細胞とは対照的に、褐色脂肪細胞は、多数の小さな液滴とはるかに多い数のミトコンドリアが含まれています。 このミトコンドリアが持つシトクロームというタンパク質は、鉄を含むヘムを補因子として含んでいます。この鉄分が褐色の正体です。また、褐色脂肪組織はほとんどの組織よりも多くの酸素を必要とするため、褐色脂肪組織はまた、白色脂肪組織よりも多くの毛細血管が集まっています。

このように、体脂肪には二種類あり、それぞれ重要な役割を担っています。一般的に「太っている」というのは白色脂肪が過剰に貯蓄されている状態のこ とで、その場合は様々な病気のリスクが高まるため、栄養バランスや運動など、生活習慣を見直す必要が出てきます。ですが、どちらのタイプもいっしょくたに して「脂肪は健康に悪い!」とは言えないことを知っておいてください。

 
メモ
・UCP1は褐色脂肪細胞にのみ存在する。
・UCP2は白色脂肪細胞、免疫系細胞、神経細胞などに認めらる。
・UCP3は主に骨格筋、心臓などの筋組織において多く存在する。糖尿病患者の骨格筋においてUCP3タンパクの合成が著明に低下していることから、熱産生あるいは脂肪代謝に関連していると考えられている

・褐色脂肪細胞には骨格筋と同じくmyogenic factor 5 (Myf5)というマーカーが表面に存在し、この二つの組織は同じ幹細胞から分化したと考えられる。同じく中間葉から発達し、褐色と白色に分化した脂肪細胞でも、白色脂肪細胞にはこの特徴がない。

・日本人を含めた黄色人種ではβ3受容体の遺伝子に変異が起こっていることが多く、熱を産生することが少ない反面、カロリーを節約し消費しにくいことから、この変異した遺伝子を節約遺伝子と呼ぶ。
 
2,4-ジニトロフェノールCCCPのような物質も、同じような脱共役の機能を有する有害物質と見なされている。エタノールやサリチル酸もまた脱共役剤の機能を有し、過剰に摂取した場合、体内のATPを消耗し、体の温度を上昇させる。 
→アルコール摂取で体温上昇。
→アスピリンでも? 解熱要素で打ち消される?

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