2015年12月30日水曜日

News:インフルエンザウィルスがナルコレプシーの原因の一つか

今日のMED News。

ナルコレプシーについてのまとめとニュース紹介です。

ナルコレプシー(独Narkolepsie、英narcolepsy)とは、脳疾患による睡眠障害の一種で、時や場所、状況を選ばずに起こる強い眠気の発作を主な症状とするものです。
名称を直訳すると、「Narco=眠り」「Lepsie=発作」で、「眠り発作」となります。そのまんまですね。
決して珍しい病気ではなく、日本においては約600人に一人が羅患している と言われています。しかし、民間への浸透度はそこまでではないようです。最近になってやっと知名度が上がってきた印象がありますね。
それでもまだまだ専門医が少ないため、正しい診断・治療が受けにくいことや、まわりの人間からの理解が得られないなど、罹患者には精神的にも大きな負担がかかっているのが現状のようです。

ちょっ と脇道にそれた自分の趣味の話になってしまいますが、じんさんという方の楽曲シリーズとそのメディアミックスが展開されている「カゲロウプロジェクト」の 登場人物に、榎本貴音ちゃんという子がいまして、この子の持病ってこの病気なんじゃないか、という考察が出ていました。実は、自分がこの病気を知り、興味 を持ったきっかけがこれなのです。いやはや、フィクションから学べることって多いんですよ!(力説) 新しいことを覚える意欲が平均と比べて異常に高いで すからね。うんうん。


症状
この病気の主な症状は4つあります(4大症状)。

①睡眠発作
日中の過度な眠気に加え、突然前触れもなく意識を失い眠ってしまうという症状です。 これは会話中だったり食事中だったり、はたまた車の運転中だったりと、時と場合を選ばずに筋肉の力が抜けて眠り込んでしまうという、場合によっては自分の身、ひいては他人をも危険にさらすことになる厄介なものです。

②情動脱力発作=カタプレキシー(独Kataplexie英kataplexy)
笑ったり、喜んだり、怒ったりして、感情が昂ぶると抗重力筋が脱力するという症状です。全身にわたり、倒れてしまう発作のほか、膝の力が抜けてしまう、呂律がまわらなくなる、などの部分発作もあります。

③入眠時幻覚
睡眠発作のせいで睡眠に陥った際や、夜間に自ら眠ろうとした時、現実感の強い幻覚を見ることがあります。これにより、入眠時に幽霊を見たなどという心霊現象を訴えることがあります。
原理としては、入眠直後にレム睡眠状態になるために、リアリティの高い夢を見ている状態になっている、ということが考えられています。

下記のとおり、本来レム睡眠は入眠後すぐには現れませんつまり、それが起こるのは脳に何らかの異常が発生しているということです。
レム睡眠とノンレム睡眠について、詳しいことは下部にまとめてあります。
 
④睡眠麻痺
いわゆる「金縛り」の症状です。開眼し意識はあるものの、随意筋を動かすことができない状態。

これらの4大症状に加えて、下の3つはレム睡眠と密接に関連しており、レム睡眠関連症状と呼ばれることがあります。
i)自動症
眠った感覚がないにもかかわらず、直前に行った行為の記憶がない状態。逆に言えば無意識に寝てしまい、寝ながら行為を続けている状態。起きた後、何をしていたのか聞かれても全く覚えていないという回答が返ってきます。
 
ii), iii)中途覚醒、熟睡困難
夜間就寝中に頻回に目が覚めたり、幻覚や睡眠麻痺があること。
睡眠構築の乱れもあるため、熟睡が困難となり、「強い眠気があり、発作的に眠りに落ちてしまうにもかかわらず、睡眠による十分な休息を取ることができない」という状態になってしまします。 
※てんかん、びっくり病などとの鑑別が重要です。
レ ム睡眠が発見された1953年から数年後、ナルコレプシーでは入眠時レム睡眠期 (sleep onset REM-period, SOREMP) が出現することが1960年に発見され、続いてSOREMPが入眠時幻覚や睡眠麻痺に影響を与えていることが発見されました。脳の睡眠リズムの崩壊とナル コレプシーの関係性がはっきり証明されたのですね。


原因
さて、ナルコレプシーの原因についてこれまで特定されているものには、オレキシンの欠乏があります。

オレキシンOrexinとは、視床下部(Hypothalamus)の後部から分泌される神経伝達物質のひとつで、食欲と眠気のコントロールに関わっています。
1998年に発見されたこの神経ペプチドは、「食欲」を意味する「orexis」から名付けられました。 別名ヒポクレチン (hypocretin) とも呼ばれます。

オレキシンにはAとBの二種類あることが判明しています。どちらも同じ一つの前駆体を切り取って作られるものです。
わずか約10,000–20,000の神経細胞から生成されるオレキシンですが、これに対する受容体は脳と脊椎両方、つまり中枢神経全体に散らばっており、高い効果を持つと考えられます。その例を以下に挙げると、

・オレキシンは褐色脂肪細胞の分化を活性化させ、カロリー消費量・エネルギー使用量を上げる。逆に、オレキシンが欠乏していると、エネルギーが消費されにくいため肥満になりやすい。ナルコレプシー患者に肥満が多いのはこれが原因だと言われている。

・オレキシンは覚醒を促す。オレキシンは、覚醒・睡眠状態をコントロールし、それらの状態を安定させるのに重要な脳核(神経伝達物質としてはドーパミン、ノルアドレナリン、ヒスタミン、アセチルコリンなどのシステム)に大きな影響を与えると考えられている。
特に、オレキシンAは覚醒状態を強く促し、体温上昇、運動、エネルギー代謝を促進する。

・また、オレキシンはエネルギー消費と同時に、食事をしてエネルギー補給することも促進する。
さて、どのようにしてこの効果をもたらすかを理解するには、新しいホルモンを二つ覚えないといけません。

体内の脂肪細胞から生成されるレプチンLeptinというペプチドホルモンは、比較的長期の満腹感をもたらすホルモンです。これにより、体内のエネルギーバランスに調整に一役買っています。
その反対の役割、つまり空腹感をもたらすのは、グレリンGhrelin (Growth hormon release inducing)というペプチドホルモンで、こちらは主に胃の上皮細胞から生成されます。グレリンは「もうすぐ食事をとれる」と脳が認識した時、食事の直前に大量に生成される短期のホルモンです。

この二つのホルモンは、それぞれオレキシンを生成する神経細胞に作用します。
レプチン受容体カスケードを通して、レプチンはオレキシンの生成を抑えることが分かりました。
そして、グレリンはその逆、オレキシンの生成を促進するということが分かったのです。
また、血中グルコース濃度も、オレキシン生成に影響があるということが判明しました。高濃度だと抑制、低濃度だと促進です。それぞれのホルモンの働きと一致しますね。

さて、オレキシンの発見は、これまで予測されていた睡眠と代謝のリンクを明確にしてくれるものでした。 マウスの実験から、長期的な睡眠障害で寝不足に陥った個体では、食事量とエネルギー代謝が飛躍的に増加することが分かっていました。長期的な不眠は慢性的なエネルギー不足を招き、さらに長期に渡れば死に至る状態です。
実際の患者でも、慢性不眠の患者はこのエネルギー不足を補うために高カロリー、高脂質・高糖度の食事をとり続け、結果健康を損ない体重ばかりが増えるという現象が見られていました。

このようなリンクがはっきりとしてきた今、睡眠障害と不健康のつながりがよりくっきりと見えますね。

・さらに、オレキシンは警戒態勢を促します。それも、アンフェタミンと同じようなこの効果を、より少ない副作用でもたらすことができることが分かっています。また、ナルコレプシーとはある意味逆の睡眠障害である不眠症の場合は、オレキシン受容体を阻害すれば、患者はより早く、長く眠りに落ちることができる、ということが実験を通して分かりました。
このことから、ナルコレプシーではオレキシンの欠乏と、それによる受容体への刺激の過少が日中の強い眠気を引き起こしていること、そして気づかないうちに眠りに落ちてしまう原因であることが見えてきます。主な症状の一つである眠り発作に限っていうなれば、オレキシンの効果が弱いために、過剰に眠剤を服用しているような状態になっているのでしょう。実際は眠剤にもいろいろありますし、効果も全く別物のため、一口には言えないのですが。

これは余談ですが、オレキシン受容体の阻害は依存症の治療になる可能性が わかってきています。オレキシン阻害剤を与えられたアルコール依存症のマウスは、アルコールに興味を示さなくなるという結果が出ています。 似たような結果が、ニコチン依存症のマウスでも出されました。オレキシン濃度が低いと、依存対象物に対する欲求が減るということでしょうか。(次の点と合 わせて考えると、これはもしかしたら軽いうつ病のような状態で、依存対象物だけでなくすべてのものに対する興味が失われている状態なのではないかとも考え られますが…)

オレキシンは高濃度だと気分を高揚させ、楽しい・幸せな気分をもたらし、低濃度だと悲しみなどをもたらす物質である可能性が出てきました。これは将来うまくいけばうつ病などの治療にも使えるかもしれない、と考えられています。

さて、これまでの研究により、オレキシン遺伝子を破壊したマウスにはナルコレプシー症状が現れることが明らかになっています。また、任意のヒトのナルコレプシー患者においても視床下部のオレキシンを作る神経細胞が消滅していることが明らかにされています。さらに、オレキシン神経細胞を破壊し人為的にナルコレプシーを引き起こしたマウスに、オレキシン遺伝子を導入したり、脳内にオレキシンを投与することで、ナルコレプシー症状が改善されることも明らかにされました。
このように、オレキシンの欠乏とナルコレプシー症状の密接な関係がわかっています。

他に、ナルコレプシーの病因として関連性が注目されているものには、HLAがあります。
HLA (Human Leukocyte Antigen)、日本語でヒト白血球型抗原とは、ヒトにおける主要組織適合遺伝子複合体MHC (Major Histocompatibility Complex)のことです。これは、免疫反応に必要な多くのタンパク質の遺伝子情報を含む大きな遺伝子領域で、その産物は自己と非自己を認識し、非自己に対して免疫反応を起こすために重要なものです。
まあ、簡単に言えば白血球のまたは「血液型」みたいなものですかね。
実 際には白血球のみならず、核を持つ細胞全てにあるものなので、どちらかというとを含む体全体の細胞に共通する「認識コード」でしょうか。「この細胞は自分 の細胞だよ、外から来たバクテリアやウィルスじゃないよ!」と周りに認識させるための印になる分子の元です。逆に、この個体特有のMHCがないと、非自己 だと認識され免疫機構の攻撃の標的となります。

ちなみに、HLAはヒトにおけるMHCだと書きましたが、例えばマウスのMHCはH-2 (histocompatibility-2) 、ニワトリではB遺伝子座 (B locus) と呼ばれます。

さて、このHLAの型には膨大な種類があり、 組み合わせの数は実に数万通りと言われています。MHCやHLAについては別の記事を書きますが、この大量なる種類のHLAの中で、ナルコレプシー患者は、ほぼ全例でHLA-DR2というハプロタイプ(個体特有の型を作る二つでセットのペアの一方)が陽性であるという調査結果が1983年に発表されています。また、日本人のナルコレプシー患者の間では、ほぼ全例においてHLA-DQ1というハプロタイプも陽性であるという調査結果があります。
但し、日本国外、とくに黒人においてはDR2陰性の患者も多く存在するそうで、一概のことは言えません。ただ分かるのは、これらのことから、ナルコレプシーが自己免疫疾患である可能性が示唆されるということです。自己の神経細胞が間違って非自己だと認識されて攻撃されることにより、オレキシンを生成する細胞やその受容体が破壊され、症状が出るという仮説です。これについても近年盛んに研究と議論が進められており、この仮説が有力となってきています。



診断
ナルコレプシーの診断は、上記の四大症状に加え、確実な診断材料としていくつか検査を行います。

1. 終夜睡眠ポリグラフ検査(PSG:Polysomnography)
睡眠ラボで一晩を過ごしてもらい、睡眠中の脳波の動きを記録するものです。これをアナライズすることにより、脳波の種類や量、レム睡眠やノンレム睡眠の期間などの情報を得ることができます。
特にナルコレプシーでは、入眠時にレム睡眠が現れるかどうか、そして睡眠中にレム睡眠がどのくらいの回数出現するのかを知ることが重要です。レム睡眠が睡眠直後に現れるようであれば要注意。

2. 反復睡眠潜時検査(MSLT:Multiple Sleep Latency Test)
この検査は日中の眠気の強さを測定するものです。朝から夕方にかけて暗い部屋のベッドで過ごし、眠りに入ったことを示す脳波が現れるまでの時間を測定します。2時間くらい間隔をとりながら、4~5回繰り返し測定が行われます。
また、脳波のほかに眼球運動や筋電図も調べます。これによって、眠りについたときにレム睡眠が出現するかどうかも分かります。ナルコレプシーの場合、4~5回の測定のうち2回以上レム睡眠が現れるのが一般的です。

3. 髄液検査 (Liquor)
オレキシン濃度を測定するため、脊椎に針を刺して髄液を採取します。一度採取現場に立ち会ったことがありますが、ものすごく痛そうでした。


治療
ナルコレプシーの治療については、睡眠障害に詳しい精神科や、睡眠障害専門の医療機関を受診するようにしますが、今のところ、根本的に治療する方法はありません。そのため、ナルコレプシーの治療は、眠気による社会生活の不利益(仕事、学業等の能率の低下、運転等の危険性)を最低限にとどめることを目的として行われます
具体的には、生活のコントロール薬物療法があります。
 
薬物療法が必要な場合でも、生活が乱れると薬の効果が減少しますので、規則正しい生活を心がけるようにします。その上で、症状に合わせて次のような薬が処方されます。

・日中の睡眠発作をおさえる薬
日中に起こる睡眠発作をおさえるために、中枢神経刺激薬が処方されます。比較的依存性が低く、朝1回の服用で効果が長時間続くモダフィニルModafinil(モディオダール)が治療の第1選択となっています。ヒスタミン系を介した大脳皮質の賦活化やGABA遊離抑制作用により、覚醒を促します。
その他にも、メチルフェニデートMethylphenidate, MPH(リタリン)ペモリンPemoline(ベタナミン)というドーパミン系の中枢神経活性薬がありますが、様々な副作用があり、依存や乱用が問題視されているため、処方されるのはモダフィニルでも改善しない重症なケースに限られます。

・情動脱力発作意、入睡時幻覚、睡眠麻痺をおさえる薬
情動脱力発作意、入睡時幻覚、睡眠麻痺といった症状を抑制する目的で、抗うつ薬が処方されます。少量の三環系抗うつ薬(Tricyclic Antidepressants, TCA)、セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)、セロトニン-ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRIなどがあります。

・夜の熟睡をうながす薬
ナルコレプシーでは、夜の睡眠が安定せず、途中で何度も目覚めてしまい、日中の睡眠発作を悪化させているケースが多く見られます。途中で目覚めるのを防ぎ、熟睡をうながすために、ベンゾジアミゼピン系の睡眠薬などが使われます。

いずれも、医師との相談のもと、症状によって薬を飲む時間帯や量を細かく調整する必要があります。

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

さ て、ナルコレプシーについてのお勉強が終わったところで、今回紹介するのはこちらの記事です。オレキシンとナルコレプシーの関係性はすでにお話ししました が、そもそもなぜオレキシン生成細胞が破壊されてしまうのかはまだ完全に明らかにされていません。この研究は、病気の原因の大元のところに光を当てたもの となります。

「インフルエンザウイルスがナルコレプシーの原因である可能性が判明」
 APAによる12月16日付の記事では、以下のように書かれています。

2009年から2010年、A型(H1N1)鳥インフルエンザが猛威を振るった後、中華人民共和国やスカンジナヴィア諸国で、普段より多くのナルコレプシー症例が報告されました。 初めはインフルエンザに対する予防接種が原因かと予測されましたが、詳しい調査の結果、インフルエンザウイルス自体がナルコレプシーの原因である可能性が強まっています。
オーストリア・ウィーン大学とスウェーデン・ストックホルムのカロリンスカ研究所の共同研究によると、人工的にA型(H1N1)鳥インフルエンザに罹ったマウスでは、免疫機構に関する遺伝子が変異し、ウィルスに対抗するのに欠かせないT細胞やB細胞が作られなくなってしまったそうです。その結果、ウィルスが脳まで到達し、オレキシンを生成する神経細胞などに感染したことが確認されました。このマウスは睡眠と覚醒のリズムに障害を示し、ナルコレプシーの症状を発しました。オレキシンの欠乏とナルコレプシーの原因がこれで証明された、ということです。

視 床下部の細胞以外には、ウィルスによって嗅覚を鼻粘膜から脳に伝える嗅球が破壊されていたこともわかったそうです。この二つは構造的には近いといえば近い ですから、納得はいきます。あとはその周りの構造はどのくらい影響を受けているのか、ですね。嗅覚も同じように問題が出ていたかは明言されていないので、 知りたいところです。

少々実験結果の提示が曖昧な研究で、結果に関する情報も少ないので、これからのさらなる研究に期待したいですね。
どちらにせよ、オレキシンとナルコレプシーの関連性は明らかなようです。

http://www.design-bsb.de/wp-content/uploads/2011/05/13-bild02.jpg
大脳基底の構造とその部位の名称。最下部のOlfactory bulbが嗅球、その上のHypothalamusが視床下部。
画像はhttp://www.design-bsb.de/wp-content/uploads/2011/05/13-bild02.jpgより

 
元記事:
Influenzaerreger könnten für Narkolepsie verantwortlich sein
APA Dez 16, 2015 
http://www.univadis.de/medical-news/173/Influenzaerreger-koennten-fuer-Narkolepsie-verantwortlich-sein?utm_source=newsletter+email&utm_medium=email&utm_campaign=medical+updates+-+daily&utm_content=529101&utm_term=automated_daily
 参考: 
・ナルコレプシー
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%8A%E3%83%AB%E3%82%B3%E3%83%AC%E3%83%97%E3%82%B7%E3%83%BC
・ナルコレプシーを診断するために必要な検査とは?
http://suimin-shougai.net/%E3%83%8A%E3%83%AB%E3%82%B3%E3%83%AC%E3%83%97%E3%82%B7%E3%83%BC%E3%81%AE%E8%A8%BA%E6%96%AD%E3%81%A8%E6%A4%9C%E6%9F%BB/・ナルコレプシーってよくなるの?治療法は?
http://www.ishamachi.com/?p=8361


 レム睡眠とノンレム睡眠について Wikipedia先生より引用

レム睡眠(英Rapid eye movement sleep, REM sleep)は、急速眼球運動(英Rapid Eye Movement, REM)を伴う睡眠である。REM睡眠とも表記される。この急速な眼球の左右運動を伴わない睡眠はノンレム睡眠(英Non-REM sleep)と呼ぶ。

レム睡眠は、鳥類と哺乳類にしかみられない。

レム睡眠について

・睡眠中の状態のひとつで、身体は骨格筋が弛緩して休息状態にあるが、脳が活動して覚醒状態にある。ただし眼球だけが急速に運動している。瞼を上げれば、眼球が急速に動いているのが観察できる。逆に、腕などを持ち上げても、離せばすぐにだらりと垂れる。
・このとき脳波は 4 Hz から 7 Hz のシータ破シータ波が優勢で覚醒時と同様の振幅を示す。脳を動かして記憶の固定をしている時間である。
外見的には寝ているのに、脳は覚醒状態にあるため、逆説睡眠(ぎゃくせつすいみん)とも呼ばれる。
・睡眠中の状態では最も脳の覚醒状態に近い(浅い眠りの段階)ため、物音などで起きやすい。
(下記の表参照)
・筋肉の疲労回復のための時間。脳は起きているのに筋肉が休んでいるため、いわゆる「金縛り」にあいやすい。
・脳は働いているので、この時目覚めるとすっきり起きられる。一時間半ごとのサイクルで計算して睡眠時間と起床時間を調整するといいのは、このため。(下記の表参照)


・レム睡眠の存在は、シカゴ大学のユージン・アセリンスキー英語版ナサニエル・クレイトマン英語版の研究によって、1953年に明らかになった。
・ヒトでは新生児期に多く睡眠時間のおよそ半分を占めるが、加齢に従って徐々に減少し、小児期で 20%、大人ではの睡眠時間の約 15% になる。
・夢を見るのはレム睡眠中であることが多いとされている。この期間を経た直後に覚醒した場合、直前の夢の内容を覚えていたり、その記憶による事実錯誤の状態になっていたりすることがあり、問題行動はこのタイプが多い:
(REM-sleep behaviour disorder (RBD):レム睡眠行動障害…レム睡眠中にもかかわらず筋肉が弛緩せず、眠って夢を見ながら行動を起こしている状態。睡眠時随伴症(リンク先参照)の一種。基礎疾患として、脳幹部の脳腫瘍パーキンソン病オリーブ橋小脳萎縮症レヴィー小体病などがある。確固たる原因は分かっていない。)

ノンレム睡眠について
・急速眼球運動を伴わない睡眠のことをノンレム睡眠または徐波睡眠(じょはすいみん)という。ノンレム睡眠は段階1から段階4までの4段階に分けられ、段階4が睡眠の最も深いレベルである。このとき、周波数が 1 Hz から 4 Hz のデルタ波と呼ばれる低周波、高振幅の脳波が高頻度で観測される。
・ノンレム睡眠は一般的には「脳の眠り」と言われる。しかし筋肉の活動は休止せず、体温は少し低くなり、呼吸や脈拍は非常に穏かになってきて血圧も下がる。脳が覚醒していないため記憶されず、この間に夢をみていたかどうかは 確認が難しい。
・いわゆるぐっすり寝ている状態で、多少の物音がしたり、軽くゆさぶられても目が覚めることはない。もしノンレム睡眠の最中に強制的に起こされると、 人体はすぐさま活動を開始することができない。大脳が休止状態から活動を開始するまではしばらくの時間が必要とされ、この状態に起こされてもしばらく次の 行動に自覚的に移ることができない「寝惚け」の状態になる。
・身体を支える筋肉は働いている
・ストレスを消去している
・ホルモンの分泌をしている
・眠りに落ちてすぐに入る状態であるため、居眠りのほとんどがノンレム睡眠である。(下記の表参照) 居眠りしてすぐに夢を見ることは少ないのではないだろうか。


入眠時に交互に現れるレム睡眠とノンレム睡眠
http://www.alongside.me/blog/wp-content/uploads/2006/12/sleep_cycle.jpg睡眠状態のサイクル。
画像元:http://www.alongside.me/blog/wp-content/uploads/2006/12/sleep_cycle.jpg
 
入眠時にまずノンレム睡眠が現れ、約1時間以内に最も深い段階4にまで達し、やがて約1時間から2時間ほどで徐々に浅くなってレム睡眠になる。以後 はノンレム睡眠とレム睡眠が交互に現れ、レム睡眠はほぼ1時間半おきに20 - 30分続く。一晩の平均的な 6 - 8 時間の睡眠では 4 - 5 回のレム睡眠が現れる。
ノンレム睡眠中に観測されるデルタ波には、脳内での記憶形成(記憶の再構成)や脳機能回復の作用があることが知られているが、マウスによる実験でレム睡眠を消失させるとノンレム睡眠中のデルタ波が弱くなることが観測された。アルツハイマー病やうつ病などでは、睡眠中のデルタ波が減少することが知られており、レム睡眠の効果や病気の解明の可能性も期待されている。

0 件のコメント:

コメントを投稿